ふるさとの話  その6

寒椿の 想い出

 

 

我が家の寒椿は これから咲き始める

 

年が改まって一月から二月の頃、村のあちこちで真っ赤な一重の寒椿のつぼみが 

  ほころび始める。

印象的だったのは、川の両岸から川を覆い隠すように木が成長して

椿のトンネルのようになり、満開の頃には大木全体に真っ赤な花が咲く。

咲き終わった花弁が、川面にポトンと落ちて流れて行ったり、

 川底に沈んで重なりあっていたりと、美しい景観だった。

 

まだ小学生の頃だったと思うが、

ある時、年が近い仲良しのいとこと二人、特にきれいだと目を付けていた

椿の大木に馳せ登って、川の流れを真下に見下ろしつつ          

  ポキンポキンと 椿の枝を折り、両手で抱きかかえて意気揚々と帰宅した。   

お墓に手向けたり、家の花瓶にタップリ飾ろうと思っての事だったが 

しっかりと 母親に𠮟られてしまった。

女の子が木に登って危ないという事と、椿の花を不必要に摘んだことが

駄目だったらしい。

 

一重でスッキリとした佇まいの寒椿は、深紅の花弁と しべの黄色が 

深緑色の葉っぱと相まってベストマッチな風情で、昔も今も大好きな花木である。 

 

今、自宅の庭でも、一本の椿が咲き始めている。

これは次男が生まれた時に市役所で頂いた記念樹で、当時の花弁はピンクと白のグラ

デーションが優し気な椿だったが、いつの間にか先祖返りして、真っ赤な花しか咲かな

くなった。これはこれで、好きな一重の椿だから 時々切り花で楽しんでいる。

小さくて優し気な薄桃色の侘助(わびすけ)や、白侘助も好きな椿だ。

 

同じ赤い椿でも、フリフリ八重咲きの豪勢な椿にはどちらかと言えば魅力を感じない。

しかし、好みは人それぞれなので 私ごときが言う話ではない。

 

正月用に活けた花のうち  生き残りの松などに椿を足したが、もうすぐポトンと散りそう~

 

椿は、花が終わった後にまん丸の硬い実ができる。

ちょうどゴルフボール位の大きさで、外皮が緑色から茶褐色に変わった頃に中の種子を 

たくさん集めて町の油屋さんに持ち込み、代金を払うと油を絞って一升瓶に詰めて 

くれていたらしい。実際に自分で経験はしていないが、誰かに聞いて認識した話だけれ

ど。 椿油は貴重で、その当時 私も余り見かけた事は無かった気がする。

 

今でもヘアケア商品としての椿油を、ホームセンターなどの化粧品のコーナーで

 見かけるが小さい瓶でもけっこう高価だ。

 

同じように菜の花の種を搾って作る 自家製ナタネ油もあったが、

こちらは良く食用油として使っていたような気がする。天ぷらを揚げる時に、

とても良い香りがしたものだった。

質素な生活をしていたけれど、健康に良い自然の恵みをたくさん頂いて

いたんだよね。