ふるさとの話その11  楽しみな椎の実拾い

 

 

秋の楽しみは、何と言っても椎の実拾いだったと思う。

 

小学生から中学生まで男子は殆ど行かなかったが、主に女子達の

楽しみだったと記憶する。

学校は隣の集落にあったので、何人かで一緒に下校する時がそのお楽しみの時間だった。

村の手前の峠を超える左側に椎の木が群生している山があり、九月か十月になると

熟した椎の実が、ドングリのように落下する。

 

その時期には誰からとも無く、行こうか?うん、行こう行こう!と即決即断で

まとまり、ランドセルを道路わきの藪の中に隠して、空になった弁当箱を手に

山へ入る。そうすると誰か声がして、近付くと下級生たちの先客だったりする。

そして、みんなでワイワイがやがやと椎の実拾いになる。

 

しいの木が大きくて数も多いので、落ちてる椎の実もザックザクである。

落ち葉を右手でかき分けながらおしゃべりしながら、収穫に余念がない。

空の弁当箱に入りきらないので、ある限りの服のポケットに詰め込んだものだった。

 

椎の実はドングリの三分の一か四分の一しかない大きさだが、味が全く違って

美味しい木の実である。

フライパンで乾煎りすると、香ばしくて栗のような味になる。歯で嚙んで殻を割って食する。

その頃は、おやつなど無かった時代なので、これはおやつ代わりにもなった。

母親に煎ってもらった椎の実をポケットに入れ、遊びながらポリポリと

食べていたのを思い出す。

 

しいの木山はもう一か所あり、村の川を数キロさかのぼった場所の川べりに

大きな椎の木がたくさん生えていた。椎の実は川の水中にも落ちていて浅い流れの

溜まり場にたくさん固まっているので、両手ですくって拾うことが出来る位だった。

 

そこは村から遠い場所だったので、

子供だけで行く事はなかったが、誰か大人となら大丈夫だった。焚き木採りに

私は、祖母に2~3度つれて行ってもらったかも知れない。

 

子供達が椎の実拾いに行く時は、親たちは心配して「まむしが居るから用心するよう

に」と注意喚起するけれど、マムシに咬まれた経験がない本人たちは

うわの空で聞き流す。実際に誰か大人がマムシに咬まれて村じゅうの話題に

なった事もあった。足を咬まれたら、強烈な痛みとともに脚に毒が回り

パンパンに腫れ上がる。心臓に毒が回らないように止血のためにタオルなどで足を縛

り、大至急病院に連絡して運んで貰わねばならない。命にかかわるのである。

 

私は、あれだけ野山が好きで、色んな所に行って山野を駆け回ったけれど

幸いなことに、そういう被害には一度もあったことは無かった。

ただしヘビは何度も見かけたし、マムシも一度だけ見たことがある。

マムシは猛毒を持っていてみんな怖いけれど、見つけたら逃がさずに何とかして

退治する。次に誰かがもし咬まれたら、大変なことになるからだ。

 

思うに、彼らだって人間がこわくて、出来る事なら遭遇したく無いに違いない。

 

 

種まきで育てた 蔓小桜 (つるこざくら)
本名はサポナリア・オキシモイデス だそうですが
ツルコザクラ、 の方が可愛いね。